『最大の人権侵害~救える命を助けられないこと~』

「岐阜の人権」執筆依頼原稿  根本一徹

先日、ひざの手術を無事に受けた。 内側開放楔状骨切り術(OWHTO)だ。 1時間の予定が、状態が酷かったらしく、3時間半になり、どうやら入院も1ヵ月から3ヵ月に延びるかもしれない。とのこと。 体熱は38℃〜39℃で、3日目の今日やっと37.9℃まで下がった。 絶対安静で寝たきりだが、色々とお伝えしたい思いが膨らんでおり、指だけは動くので、綴った。 術後、今も脚の太さ2倍に腫れ上がり、術後に全身麻酔が切れてから、物凄く痛む。弁慶の泣き所や膝の内側を金属バットで、脈拍に合わせて打たれ続けているみたいな逃げ場のない痛み苦しみだ。 回復するのは大変な事なのだ。としみじみ思う。 痛みに疲れて、断片的寝ている時だけが、痛みが無いので救いだ。 こういう目に見えない「生きづらさ」もあるのだな。と「見えない心の病」と重なり、色々と考えさせられる。 諦めずに、 痛みに耐えてリハビリ頑張りたい、早く動けるようになりたい。と思う。  この手術は、何故することになったかというと、遡ること24歳の時だ。いつもの築地市場で仕事を終えて、250ccのバイクに乗りながら帰る時、信号停車中に事故に遭った。 相手は、同じく24歳女性で、彼女は父の大型ベンツに乗り、彼氏と朝帰りで、バレたらマズイと、一時停止等を無視して、110キロで飛ばしていたそうだ。 暴走車が突然突っ込んできた来たので、壁に向かって吹っ飛ばされた私は、顔面半分くらいは凹み、網膜には7箇所穴が空き、歯や身体はあちらこちら折れて、顔や身体の皮膚から突き出した。 また、決定的な損傷は、右膝の半月板断裂で、術後3ヶ月入院して治療をした。 この時に、私の人生の全てだった極真カラテ選手としての人生は、不運にも葬り去られた。 寝ている時以外は、呪い狂っていた。 そんな中、入院中に、看護学生だった妻と出会う事になる。転んでもタダでは、起きない奴!とからかわれたものだ。 また毎日カラテで、全身を鍛えていたからこそ、生きていた。命を救われた。と思う。 しかし、そこまでの境涯にたどり着くまでは、かなりの時間がかかった。 ぶつかってきた彼女は、今どんな人生を歩んでいるのだろう…。 退院後リハビリを1年続けたが、膝は90度ぐらいまでしか曲がらなかった。 なんとか社会復帰したが、世の中の見え方が変わってしまった。 人生の目的や楽しみ、そして生きる気力を失ってしまった。虚しさと悲しさだけが、身体の痛みとともに疼く。もし、あの時死んでいたら、私の人生は何だったのだろう…。 その後3年程悩み抜いて、ついに出家することにした。  臨済宗禅道場でも、鬼僧堂で有名な美濃加茂市にある正眼寺では、「かわいがり」で、無理やり膝を曲げられ、坐禅と正座が長時間出来る様になった。 もちろん、毎回痛みを耐えながらだが…。 それ以来、僧堂から今に至るまで27年間、坐禅と正座に、膝は耐えすぎていた様子だ。 膝の半月板は手術が必要なほど、壊れて無くなってしまっていた。 手術をすれば、また坐禅や正座ができるようになるかもしれない。と医師は言う。 禅僧として、酷な判断を迫られる。従うしか無かった。 脛骨を切断して人工骨を入れ、膝の形を変え、主幹と7つに枝分かれした金具を8本のボルトで固定し、腿の骨にドリルで小さな穴を多数空けて軟骨蘇生を促す手術を受けた。 手術後は、数カ月の入院になるそうだ。 入院中の今、未だに、けなげに付き合ってくれている身体を労わりながら、しっかりと人生を振り返えりたいと思う。 そして今、痛みを超えてメッセージ打っている事に気が付いた。 思いを伝える、これも「三昧」で、ひと時の救いなのだ。相談現場に訪れる方々も、きっと同じなのだろう。沢山の痛みを体験させられた人生だが、神仏や天の導きで、尊い気づきを多々もらえている様だ。 私の場合、死にかけた大事故だったが、今思えば人生を変え、生き直す出家のきっかけだった。毎日のカラテのトレーニングのおかげで即死を間逃れた。そして入院中に出会った方が、当時看護学生で、後に私の妻となった。人生が深まる。不運でなく有難いのだと思いたい。 今も、膝小僧の祟りだろうか、脚はまだ2倍の太さ、身体が熱々だ。ほんとうに回復するのは大変な事だ。 痛さに耐えながら、天井とにらめっこしている。 まだ、もう少しこの脚で歩み、生きたい。 人生は短い。 残りの人生、1番深いところまでいって、そんなに大事でないところにエネルギーを使ってしまわないようにしたい。と深く思う。

そして、「最大の人権侵害は、救える命を助けられないことである。」居ても立っても居られない思いで、2004年から続けてきた自死防止相談活動。そこで生きる希望、暗闇から光みつける瞬間に立ち会ってきた沢山の日々。この経験を必要とされる方々に届けたい思いから、『絶望のトリセツ』(根本一徹/法蔵館)という本を書いた。今年春以降に出版される予定だ。悩みや生き辛さを乗り越えて、光を見つける機会になれば幸いに思う。2023年9月1日記

【プロフィール】

僧侶という本業の傍ら、2004年より若者を中心に自死防止相談活動や自死遺族支援を開始。対面相談の他に、ネットやメール、SNSを使った相談活動や哲学現代思想、社会人経験を活しかた独自の相談スタイルや、生と死の意味を共に考える。仏教僧による自殺防止活動が各種メディアに注目される。

【肩書・受賞歴】  

臨済宗妙心寺派大禅寺住職。「いのちに向き合う宗教者の会」代表。・2001年「第35回三鷹阿波踊り大会」金メダル個人受賞。2011年「第 35 回正力松太郎賞青年奨励賞」受賞。2019年「羽田人権文化基金人権大賞」受賞。2022年5/18「ソロプチミストSI関奨励賞」受賞。2022年9/1「ソロプチミスト日本財団社会ボランティア賞」受賞。